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今まで決して安売りをしなかった、ラグジュアリーブランドが値下げに踏み切る。それでも耐えきれず次々と倒れていく。まるで、ブランド不敗神話の崩壊を見ているようですが、本書『堕落する高級ブランド
著者はダナ・トーマス。世界を股にかけるファッションジャーナリストです。本書の訳者である、実川元子が「自分のキャリアをかけるくらいの勇気だったのではないか」と述べているように、ブランドの華やかな側面だけではなく、成功の裏に隠された闇も暴き、バッサバッサとブランドを斬っていて、この著者、大丈夫なのかな?と心配になるくらいです(笑)
登場するブランドは、ヴィトン、ディオール、グッチ、プラダ、アルマーニ、シャネル、エルメス、コーチなどなど。服よりバッグでおなじみのブランドが中心。ファッションに興味がない人でも、論に入る前に、ブランドの歴史について説明が入るので、問題なく、話についていくことができます。その分、357ページと新書2冊分くらいの分量ですが、読み応えもありますし、今までのブランド本の集大成といいますか、おいしいところがまとめられていますので、万人にオススメできる本です。それでは、本書の内容を紹介していきたいと思います。
<目次>
第1章 誕生そして変貌
第2章 グループの精神
第3章 グローバル化へと突き進む
第4章 スターと高級ブランドの甘辛い関係
第5章 成功の甘い香り
第6章 大切なのはバッグの中にある
第7章 繊維産業と失われた遺産
第8章 いざ大衆市場へ
第9章 偽ブランド品の裏切り
第10章 ブランドの現在位置
第11章 高級ブランドの明日
第1章は、ヴィトンとディオールの歴史についてです。ヴィトンの真髄であるトランクのラグジュアリーぶり、ディオールはそのクチュールのゴージャスぶりが語られます。ヴィトンが家族経営で保守的なスタンスだったのに対し(ヴィトンの古着が出てこないのはそのため)、ディオールはライセンス商法(名前貸し)でイケイケ(ディオールの古着の多くはライセンス品)でした。やがて、ヴィトンは経営者が代わり、その頑なに守ったブランド価値から大企業へとなっていき、ディオールはライセンス商法でブランドの価値が地に落ちて(品質が悪いので)、 親会社が倒産することになるのですが、その2つのブランドに目をつけたのが、LVMHの総帥ベルナール・アルノーです。
第2章は、ベルナール・アルノー中心に、ブランド買収劇とブランドコングロマリットの形成までが語られます。ファッション本では主に「神」扱いされるアルノーですが、この本では、完全に悪者扱いです。ディオールを買収し内部に大ナタをふるい(29年勤めたデザイナーのマルク・ボアンをあっさり解雇)、ジャン・パトゥからクリスチャン・ラクロアを引っこ抜き(パトゥはボロボロに)、セリーヌを買収し(経営はセリーヌ側が握る約束だったが、ヴィピアナ夫妻は体よく追放された)、うまいことLVMHの筆頭株主となり(ヴィトンが創業者一族の手を離れることに)、今のLVMHの基盤が完成するわけです。鬼ですね(笑) その後、グッチを巡る死闘(アルノーVSデ・ソーレ&トム・フォード)と、その戦いで漁夫の利を得たプラダグループの話が続くのですが、著者は、そんなアルノーを冷酷な実業家と述べたり、ターミネーターというあだ名も驚くことはない、と評しております。
第3章は、日本人とブランドについて。都築響一の『 HAPPYVICTIMS 着倒れ方丈記』や秦郷次郎の『私的ブランド論』が大きく取り上げられています。日本人が大好きな免税店についても語られ、ここでも「アルノーの免税商法」というお題で、アルノーの手法を説明しています。
第4章は、ブランドと広告の歴史について。今では信じられないことですが、ブランドを宣伝するなんて安っぽいことはできない、という考えが昔はあったようです。そんな広告を変えていったのが、シャネルのカール・ラガーフェルド、ヴィトンのマーク・ジェイコブス、グッチのトム・フォードたち。クリエイティブディレクターの重要性が増していきます。そして、ファッションと広告でもう一つ大切なのが、歩く広告塔こと、セレブ(ハリウッドスター)です。ハリウッド御用達のブランドとなったフェラガモ、オードリ・ヘップバーンがその名を世界的にしたジバンシー、そして、そのセレブの影響力に目をつけ、セレブ戦略を開始したアルマーニが登場。また、ブランドとセレブのかけ橋であるスタイリストという職業も無視できない存在になっていくのですが、その闇にも触れています。
「スタイリストの7割は高級ブランドにこうもちかけるんです。『あなたのお望みをかなえてあげてもいい』とね。そして、高級ブランドに『こちらの望みをかなえてくれたら、こんなことをやってあげる』と言わせるように仕向ける。そして、残りの25%から30%はこんな感じです。『ええ。あなたの望みはかなえますよ。それで私には何をくれます?』見返りは、カネ、服、豪華な休暇旅行、ファーストクラスでの移動、パリのホテル・リッツの宿泊なんかです」
華やかなレッドカーペットを歩くセレブの裏には、スタイリストの欲望とブランドの思惑が渦巻いているのです。
第5章は、利益率が高く、ブランドの名前を広めるのに最適な香水について。ここでは、伝説の香水シャネルのNO.5や香水の舞台裏(香料や製作過程)を取り上げています。香水はヒットしてもファッションのように寿命が短いので、すぐに販売が伸び悩み、利益も減少していくのですが、ブランド側がどうやって、それを防いでいるかというと、コストの削減です。
「瓶の形を少し変えるとか、色を変えてコストを削減しようとします。ほんのちょっとした変化だから買う人は気付かない。また、どのブランドでもすべて、最初はデザイン優先で新製品を売り出しておいて、後からコスト削減のために美観を落としつつ、でも見かけはほとんど同じにしてコストを少しでも下げようとするんです。これはどのブランドにもほとんど共通していますね」
ひどいのになると、香水を薄めたり、原料を科学で補ったりもするようですが、エルメスとシャネルは他のどのブランドよりも天然の原料を使っているそうですよ。
第6章は、販売価格が製造コストの10倍から12倍という、収益の大黒柱になっているバッグについて。各ブランドのバッグ戦略が説明されるのですが、それらのバッグと一線を画す、エルメスの職人ぶりや歴史が厚めに語られています。プラダのナイロンバッグ(パラシュート素材)や コーチの快進撃についても触れ、高級ブランドのターゲットが中流階級に移ったことも指摘。それに伴い、ブランド側もコスト削減に力を入れだします。その行きつくところは、やはり、人件費の削減、つまり、中国に工場を移転することを意味するのですが、その中国の工場主の話が非常に興味深いです。
第7章は、シルクとエミリオ・プッチについて。この章は短いです。メイドインイタリーと中国生産の何が違うのか。それも語られます。
私が耳にしたかぎり、中国生産を進んでおおっぴらにしている高級ブランドのデザイナーはただ一人、ジョルジオ・アルマーニだけだ。2004年の中国訪問で彼はこのように語った。「『メイド・イン・イタリー』のラベルは、特別な製品を意味し、最高ランクを示すためにも非常に重要だ。だが、他のラインについては中国で生産している。品質管理をきっちりしていれば、何の問題があるだろうか」
さすがアルマーニ! 他のブランドにできない事を平然と言ってのけるッ!そこに痺れる! 憧れるうぅ!あくまで、自分の美学を貫くアルマーニらしい発言です。
第8章は、ファッションの民主化について。高級ブランドが大衆市場に降りてきたことによって、台頭してきた、アウトレットモールやオンラインショッピングを取り上げています。
「1980年代は何でもかんでもステータスという時代で、いくら払ったかが自慢だったけど、今はどれだけ安く買って得したかが自慢だ」
こうしてアウトレットが登場。ブランド側も在庫を処分でき、消費者もお買い得。一見、win-winの関係ですが、そこで失われているのは何かを考えると・・・。
「それまでは、あらゆるメディアが消費者に『ブランド品を持とう』とたきつけていたのに、実際に手に入れるためには都会にある店にまで出かける必要があった。それよりも、自宅でくつろぎながら高級ブランドが注文できて、一両日中に商品が配達されたら素敵じゃないかしら?それこそ本当の贅沢じゃない?」
こうしてブランドのネットショッピングが誕生。それを贅沢と考えるか、誰でもどこでもブランドにアクセスできるようになり、本来は「特別なもの」であったはずの、ブランドのラグジュアリー感が失われたと見るのか・・・。
そして、ブランド側はファッションの大衆化・民主化によって、ありがたくない客も惹きつけるようになり、頭を悩ませることになるのです。例えば、偽ブランド品を売買する人たちです。
第9章は、偽ブランド品について。偽ブランド品のメッカ、サンティ・アレイや中国の偽ブランド品の製造過程(ランクの話とか)が語られます。
「2年前、タイのある組み立て工場に行ったとき、10歳以下の6〜7人ほどの子供が床に座って偽ブランドのバッグを作っているのを見ました。 オーナーは彼らの脚の骨を折った上、膝から下を太ももに縛り付けて わざと治らないようにしていたんです、『外に出て遊びたいと言い出さないようにやった』と言ってました」
偽ブランド絶対ダメ!偽ブランドの製造をなくすには、消費者が自重するしかないのです。あなたにとって、その偽ブランド品がギャグやオモチャでも、その裏で、犠牲になっている人たちがいるのです。
第10章は、高級ブランドと市場について。次は、中国、ロシア、インドの富裕層から搾取しよう!というブランドの狙いが書かれています。ブランドのロゴに踊らされる、第二の日本やアメリカはどこだ!?(笑)また、この章ではファストファッションにも言及(H&M×カール・ラガーフェルド)。
「高いものと高くないものーといっても、安物じゃないよ。安物という言葉が嫌いなんだーが共存する時代に我々は生きている。ファッション市場でこんな現象が生まれたのは、初めてだ」
シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドの言葉を引いて、ファッション界における「最高級」と「最底辺」の境目がなくなったことも指摘していました。
第11章は、高級ブランドに反する流れについて。モノが良かった時代のブランドヴィンテージにラグジュアリーを見いだす人たち、損益ではなく独自のラグジュアリーを追求する、トム・フォードやクリスチャン・ルブタンのような「高級ブランド亡命者」と呼ばれている人たちの話、金持ちは今何を買っているのかという話、サンパウロで飛ぶ鳥を落とす勢いの高級ショップ、ダズリュが提供しているラグジュアリーとは何か、このあたりをレポートしています。本書には、とにかく、トム・フォードがよく登場するのですが、アルノーとは違い、こちらは正義の味方扱いです。著者は、トム・フォードが好きなんだろうなぁと(笑)
長々と本書を紹介してみましたが、要するに、著者の主張はこれです。
高級ブランド産業は儲け第一主義で、資産形成を競い合う「モノポリー」ゲームのようになっている。経営者の関心の中心はブランドの芸術性ではない。損益だ。
昔、ブランドの価値は、唯一無二のモノ作りから生まれたラグジュアリーさにあった(サービスも含め)。それが、ファッションの民主化とともにブランドが金儲け主義に走り出す。ロゴを目立たせ、 コストを下げ(品質も下げ)、サービスはマクドナルドのようにどのお店でも均一化(特別感がない)。ブランドは単なる記号(イメージを売っている)にすぎず、それは、もはや、必ずしも「ラグジュアリーであること」を保証するわけではなくなってきたのです。
ミウッチャ・プラダの母も同意見だ。「現在のプラダ製品はつくりは悪いし素材もよくない、以前(自分が全部のデザインをてがけていたとき)はずっとよかった、と娘は言っていますよ」
品質も玉石混淆になりました。市場では、高いものと高くないものが共存し、偽物も混ざる(ネットのオークションが顕著)。ファストファッション×著名デザイナー、ライセンス品、アウトレット、偽物、品質が堕ちた高級品。この中から、自分にとっての、「イイモノ」を見極めないといけないのです。ブランドネーム(タグ)や値段はそれほど当てになりません。
品質は一定の基準をクリアしていれば問題ないという人。デザインが重要という人。デザイナーの思想が重要であるという人。それはそれでいいと思いますが、「品質=耐久性がある」と見るのではなく、「品質=作りこみ」という目で、一度、昔の服と今の服をじっくりと見比べてください。昔の服は、ディテール(見えにくいところ)が凝っているものが多いので、それを見てから、今の服を見ると、デザインが洗練されただけなのか、それとも、無駄なディテール(贅沢な装飾)として コスト削減の対象になってしまったのか。今まで見えなかったことが見えてくるはずです。
服の価値がわかりにくい、こんな時代だからこそ、ファッションが好きな人には、古着にも目を向けて欲しいと思います。90年代、80年代、70年代、60年代とモードを逆行し、「品質」を見つめ直す、いい機会ではないでしょうか。とりあえず、本書『堕落する高級ブランド




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私は新品のシャツがなかなか自分にあったものが見つからないので、古着で試着してあったものばかり持っています。余談ですが!サンローランのヴィンテージシャツの形の良さは悶絶ものだと思います。
同意です。この手の本ではミシェル・リーの「ファッション中毒」もかなり面白かったですが、
本書も勝るとも劣らない出来だと思います。
読んだ気分になってしまうわ(笑)
てか、コーチも中国産バッグ作りませんでしたっけ?
とても参考になりました。
ボクも少なからずブランド品やファッションには人並みではありますが興味を持っていると自負していますし、また、仕事柄、広告業界の一端にいるひとりとして、本書を読んでみたいと思いました。
とにもかくにも、本当に参考になりました。
ありがとうございました&お疲れ様でした^^
この本をもう読まなくていーやって思ったくらいにw
玉石混合→玉石混淆(交)
もし間違って覚えていたなら・・。
今回は特に面白く読ませていただきました。
そこに痺れる! 憧れるうぅ!
でちょっと笑ってしまいました(笑)